労務相談Q&A
faq
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退職者の前歴を知りたいという問い合わせに答えても良いですか?
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この問題については、労基法と個人情報保護法と二つの角度から検討する必要があります。労基法上は、照会に答えても法違反に当たりません。しかし、個人情報保護法第23条および厚生労働省が定めた指針で、「雇用管理に関する個人情報を取扱う者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」と規定しています。したがって、雇用管理の実務上は、本人の同意なく個人情報を第三者に提供するのは避けるべきです。
再就職先が前の職場に退職理由などを問い合わせることはよくあります。労基法第22条第4項では、「使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の国籍、信条、社会的身分、組合運動に関する通信をしてはならない」と定めています。しかし、禁止されている通信事項は制限列挙で、「退職の事由」は含まれていません。
しかも、禁止事項であっても、「事前の申し合わせに基づかない具体的照会に対して回答することは、禁止するところではない」と解されています。つまり、労基法上は、照会に答えても法違反には当たりません。しかし、個人情報保護法第23条第1項では、「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」と規定しています。厚生労働省が定めた指針では、「個人情報取扱事業者以外の事業者であって、雇用管理に関する個人情報を取扱う者に対して、個人情報取扱事業者に準じて情報の適正な取扱の確保に努める」よう要請しています。雇用管理の実務上は、本人の同意なく個人情報を第三者に提供するのは避けるべきです。照会が来たときには、相手先(募集企業)で、本人から同意を得るよう要請するのが適切です。
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年休の買い上げが認められるのはどのようなケースですか?
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①退職により未消化のまま残った年休、②2年の消滅時効により取得の権利が消滅した年休、③労基法で規定されている年休を上回って与えられている年休に関しては買い上げが認められます。もっとも、このような措置は、あくまでも結果的に年休権が消滅してしまう場合であって、これを制度化することは好ましくありません。
年次有給休暇は、労基法第39条により労働者への付与が義務化されています。所定労働日の労働を免除するのが年休の趣旨ですから、年休を取得する代わりに賃金を支給することで、年休を与えたことにはなりません。その意味で年休を金銭で買い上げることはできません。通達においても、「年次有給休暇の買い上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法第39の違反である」としています(昭30.11.30基収4718)。
原則として、年休権の買い上げが否定されるのは、労働者が確実に年休権を行使できるようにするためであるから、もはや労働者が当該年休権を行使することができない場合であれば、買い上げも認められます。
もっとも、このような措置は、あくまでも結果的に年休権が消滅してしまう場合に、使用者が買い上げることも許されると理解すべきものです。仮に、このような扱いをする旨を就業規則等に規定して制度化するとなれば、労働者は年休権の買い上げを期待して年休権の行使を差し控え、かえってその行使を妨げる結果になることも考えられます。したがって、このような制度化は、好ましいものとは言い難いです。
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始末書の提出を強制することはできますか?
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雇用関係においても、個人の意思の自由は最大限尊重されるべきであり、謝罪や反省を強制することはできません。そこで任意に始末書提出に応じない者に対して、業務命令という形での提出の強要や、不提出を理由とした不利益な取り扱いはできないと解されます。ただし、強制するのでなければ、上司が管理権または監督権にもとずき、その監督下にある従業員に対して、指導の観点から始末書の提出を求めること自体は許されるものと解されます。
始末書の提出を強制できるかについては、多くの裁判例がこれを否定的に解しています。「労働者の義務は労働提供業務に尽き、労働者は何ら使用者から身分的支配を受けるものではなく、個人の意思の自由は最大限に尊重されるべきであることを勘案すると、始末書の提出命令を拒否したことを理由に、これを業務上の指示命令違反として更に新たな懲戒処分をなすことは許されない」としています。(豊橋木工事件 名古屋地裁 昭48.3.14判決) 始末書の提出を強制することは、個人の意思の自由に関わる問題として認められず、提出拒否を理由とした懲戒処分もできないと考えられます。
とはいえ、従業員に対して一切の書類提出を求めることが許されないわけではありません。従業員は雇用契約における信義則上の義務として、経営上の支障となる行為や、職務秩序を乱すような行為をした場合、具体的内容や事情の調査に応じ、報告する義務があります。よって、顛末や事実経過を報告させる「顛末書」や「経過報告書」であれば、業務命令の一環として提出を命ずることができるため、このような形で記録を残し、改善のための指導を行っていくことが重要となります。
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2事業場を掛持ちで働くときどちらで割増賃金を支払うのですか?
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労働者が異なる事業場、たとえばA事業場とB事業場で働く場合その両者の労働時間を通算し、通算の結果、法定労働時間(8時間)を超える場合には、超えた時間に割増賃金を支払わなければなりません。この場合、割増賃金を支払わなければならないのはABいずれの事業主であるかが問題となります。通常は、その労働者との時間的に後で労働契約を締結した事業主と解されています。なぜならば、後で労働契約を締結した事業主は、雇入れに当たってその労働者が他の事業場で働いていることを承知して、少なくとも確認できる立場であって、労働契約を結んだものであるからです。
ただし、A事業場で4時間、B事業場で4時間働いている者の場合、A事業場の使用者が、労働者がB事業場で4時間働くことを知りながら労働時間を延長するときは、労働契約の後先に関係なく、A事業場の事業主が割増賃金を支払わなければなりません。どちらの事業主が法定労働時間外にその労働者を使用した事業主と考えられるか、実質的に判断する必要があります。
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通勤手当を6ヵ月定期券で交付したいのですが問題はありますか?
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現物給与は、労働協約に規定がないと一切認められないことに注意することが必要です。したがって、労働組合のない企業では現物給付はできませんので定期券での支給はできません。また、労働組合があっても労働協約が締結されていない企業では、現物給付は認められません。 いったん定期券代を通貨で支払い、それを回収して企業が恩恵的に定期券を購入して渡すことは認められます。
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パートタイマーや嘱託社員用の就業規則を作成しないと、正社員の就業規則が適用されますか?
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パートタイマーや嘱託社員用の就業規則を作成していないと、原則として正社員の就業規則が適用されます。あるパートタイマーが退職しましたが、会社からパートタイマーは退職金がないと言われました。労働基準監督署で調査したところ、正社員の就業規則はあるが、パートタイマーについての就業規則がなく、退職金規定にパートタイマーを除く規定がありませんでした。是正勧告の結果、規定どおりの計算でこのパートタイマーに退職金を支払いました。
パートタイマー等を雇用している会社は、正社員とは別の就業規則を作成することが重要です。
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自転車で会社通勤、通勤手当は返す?
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通勤にかかる費用は労働者が本来負担すべきものです。しかし、社員の福利厚生の一環として住居や通勤経路の届出を求めたうえで、合理的な経路による費用を賃金の一部として支給する会社が多くなっています。通勤手当は賃金なので、通勤に使ったかどうかにかかわらず受け取ることができるとの見方もあります。しかし、「実際にかかる費用を支給する仕組みなので、使っていないならば返還しなくてはならない」との見方が大勢です。
本来、払わなくてもよい通勤手当を払わせれば、会社に経済的損害を与えてはならないという労働契約上の信義則に違反します。自転車通勤なのにあたかも電車やバスを利用しているように装えば、通勤経路の虚偽申告になります。
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社員が痴漢で逮捕、解雇できますか?
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会社に具体的な損害が発生したかどうかが明らかではありませんが、もし会社のイメージや信用を大きく損なう結果が発生したのであれば懲戒解雇も妥当だと考えられます。ただし、信用を大きく損なうケースとしては、マスコミに報道されてしまったり、上場企業がそのことで株価が下落したりと、目にみえる損害が合った場合に限られるでしょう。
そもそも就業規則は、会社の秩序を保つのが目的であり、会社外での出来事にまで及ぶものではありません。たいていの会社では、就業規則において「会社の名誉、信頼を毀損した場合」を懲戒解雇事由として規定していると思いますが、この規定もプライベートまで関与することはできません。原則として会社は、具体的に業務に支障をきたすことがないかぎり、社員の私生活上の行為について懲戒処分を行なうことはできないのです。
しかし、たとえば犯罪など社会的、道義的に問題のある行為をして信用をおとしめた場合、正当な根拠もなく会社を誹謗中傷して業務妨害をするような場合は、プライベートな行為でも会社は懲戒処分を行なうことができるとされています。
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社員が転勤命令を拒否したが?
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一般に労働契約を結ぶ際には、就業の場所や職務の内容など重要な労働条件が明らかにされることになっています。契約を交わしたあと、すぐにこれらの条件を変更することは契約違反となります。しかし、長期の雇用を見込んで期間の定めのない契約を結んでいる場合は、一定の期間が経過して条件がそろえば、特約のないかぎり、会社は社員の職務内容や勤務地を変更する権限を有すると考えられています。
その条件とは、次のようなことです。1. 就業規則などに転勤を命じる場合があることを明記している
2. 業務上の必要がある会社は時代とともに内部の構造や組織も変わり、一部の事業所がなくなることもあります。その一方で雇用を維持する義務があるため、転勤を含む社員の配置に関しては広い裁量権が認められています。
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ミスで会社に大損害、社員の責任は?
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一般論と言えば、重大な過失で会社に損害を与えた社員は、内規により解雇などの厳しい懲戒処分を受ける可能性が高い。過失と損害との因果関係がはっきりしていれば不法行為(民法709条)により損害賠償責任を負う可能性もあります。
ただ、原因の一端が会社側にもある場合は、信義則により社員の責任は減ります。例えば、会社が過重労働を強いていた結果、工場従業員が居眠りをしたり注意力が散漫になって爆発事故などを起こす場合などです。1.会社は社員がミスを犯さないように十分な予防をしていたか
2.ミスが起きた場合に被害を最小限に抑えるような措置をとっていたかなどの事情が考慮されます。業務上の交通事故などで被害者側に過失があれば、裁判者がそれを斟酌して賠償額を減らす。過失による交通事故で社員が支払う賠償金は、飲酒運転などの悪質な場合以外、おおむね賠償総額の二割程度にとどまるケースが多いようです。