労務相談Q&A
faq
-
従業員の健康診断について教えてください。
-
労働安全衛生法は、規模・業種に関係なく企業に対し労働者の健康診断を義務づけています。具体的には、雇入れ時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断等があります。
雇入れ時の健康診断は、その従業員が医師による健康診断を受けた後3ヵ月を経過しない場合に、健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、その健康診断の項目に相当する内容については実施する必要はありません。
特定業務従事者の健康診断は、有害な業務等に常時従事する労働者に対し、6ヵ月に1回定期に医師による健康診断を実施させる必要があります。対象と鳴るとなる業務は深夜業も含まれており、具体的には6ヵ月を平均して月4回以上の深夜業務に従事した従業員が対象とされています。事業主は、定期健康診断および特殊健康診断を実施した際に、その結果を従業員に通知する義務があります。また、従業員の健康診断個人票を5年間保存し、これに基づいて従業員の健康管理や適切な配置転換などの措置を講じなければならないものとされています。
また、常時50人以上の従業員を使用する事業場が健康診断を行ったときは、遅滞なく定期健康診断結果報告書を提出する必要があります。会社で行う健康診断については法律で事業者に健康診断の実施の義務を課長課している以上、当然事業者がその費用を負担すべきであるとしています。
したがって、事業主は雇入れ時および定期に実施する健康診断の費用を原則として負担することが必要です。また、特殊健康診断の受診時間は労働時間であるが、一般健康診断は労働時間ではないとされています。しかし、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいとされています。
-
旅行積立金を賃金から控除できますか?
-
労働基準法第24条の賃金の全額払いの原則により、賃金はその全額を支払わなければなりませんが、
①法令に別段の定めがある場合、②労使の書面協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができます。
労使の書面協定による賃金の一部控除は、「購買代金、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、社内預金、組合費等その事由が明白なものについてのみ控除を認める」とされています。協定書の様式は任意ですが、協定書には少なくとも、控除の対象となる具体的な項目とその項目別に定める控除を行う賃金支払日を記載することが必要とされ、届け出の必要はありません。労働基準法第24条の「全額払いの原則」とは、賃金の一部の支払いを留保することにより、これが労働者の足留め策とならないようにするとともに、直接払いの原則と合わせて賃金の全額を労働者が受領できるよう『控除』を禁止したものです。ただし、「法令で別段の定めがある場合」と「書面による協定がある場合」だけは例外を認めています。
「法令で定められた場合」の主なものは、所得税、地方税、社会保険料、それに制裁としての減給などがあります。
「書面による協定がある場合」とは、購買代金、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、社内預金、組合費等その事由が明白なものについてのみ控除を認めるとされています。この書面には、①控除の対象となる具体的な項目およびその額(可能な限りで)、②控除対象の各項目別に定める控除を行う賃金支払日を記載するよう行政指導がなされています(平11.3.11基発168号)。この書面による協定は「二四協定書」とも言われ、所轄労働基準監督署に届け出る必要はありません。
-
雇用契約書に記載しなければならない事項は何ですか?
-
労働基準法第15条で次の事項(絶対的明示事項)は必ず書面で明示しなければなりません。労使トラブルを防ぐためには、雇用契約書の内容で従業員が同意した旨の署名・捺印をもらうことが重要です。
(1)労働契約の期間
(2)就業の場所、従事すべき業務
(3)始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、並びに労働者を2組以上に分かれて就業させる場合の取扱い
(4)賃金の決定、計算および支払方法、賃金の締切りおよび支払の時期並びに昇給に関する事項
(5)退職に関する事項雇用の流動化や雇用形態の多様化の流れの中で、労使トラブルを未然に防止するために雇用契約の締結が重要となっています。 法律がどうこういう前に、従業員との間に信頼関係を築くことが大切です。そのためにも、信頼関係を作り上げる最初の出発点となる採用のときに、どういう条件で雇い入れるのか雇用契約書でハッキリさせておきましょう。原則、労働契約締結時に従業員に対して、口頭または書面で明示することになっています。
しかし、労働基準法第15条では上記の絶対的明示事項に関しては必ず書面で明示しなければなりません。労働基準法では「書面で明示」となっていますから、会社から一方通行で「労働条件通知書」として従業員に内容を説明して、これを渡せば法律上は十分です。
しかし、後になって従業員から「そんなの、もらっていない」と言われても困りますので、労働条件通知書ではなく「雇用契約書」として2部作成し、雇用契約書の内容で従業員が承諾した旨の署名・捺印をもらって、会社と従業員が各1部を保持するようにします。雇用契約書を締結することによって、かなりの部分の労使トラブルを防止できます。なぜなら、社員本人が後で会社に現れて復帰を求めるという事態はまず考えられないからです。仮に、そのような事態が生じた場合には、その社員が退職の意思表示をしていないので、自己都合退職扱いは無効であると主張したとしても、今回は目の前に出現したのですから、その場で懲戒解雇の意思表示をすればよいわけです。
なお、雇用保険の資格喪失手続においても「自己都合退職」として処理してもらえますし、社会保険についても「健康保険被保険者証添付不能届」を資格喪失届に添付して、被保険者証を回収できない旨を記入しておけば問題ありません。
-
行方不明社員の対処方法を教えて下さい。
-
行方不明社員の懲戒解雇が決定された場合、当該社員に対して解雇の意思表示を行う必要があります。解雇の意思表示はあくまで本人に対して行わなければなりません。この場合の意思表示としては、民法97条の2による「公示送達」の方法がありますが、手続きが面倒です。実務上は、会社として解雇の意思表示をしなくてもいいように、就業規則における退職事由の項目に「社員が行方不明となり、14日以上連絡が取れない場合」を追加しておけば、会社からの解雇の意思表示や本人の意思表示がなくても退職が有効に成立すると考えられます。
行方不明の社員を自己都合退職として取り扱うことが許されるのかという問題は理論的な問題と実務的な問題とを区別して取り扱うことが必要です。単に出社してこなくなったことをもって、その社員の退職の意思表示があったものとして取り扱うことはできず、理論的には所在不明を持って自己都合退職として取り扱うことは難しいわけですが、実務的な問題としてみれば、自己都合退職扱いにしてもほとんど紛争を生じません。
なぜなら、社員本人が後で会社に現れて復帰を求めるという事態はまず考えられないからです。仮に、そのような事態が生じた場合には、その社員が退職の意思表示をしていないので、自己都合退職扱いは無効であると主張したとしても、今回は目の前に出現したのですから、その場で懲戒解雇の意思表示をすればよいわけです。
なお、雇用保険の資格喪失手続においても「自己都合退職」として処理してもらえますし、社会保険についても「健康保険被保険者証添付不能届」を資格喪失届に添付して、被保険者証を回収できない旨を記入しておけば問題ありません。
-
計画停電による休業の際の賃金の取扱いについて教えて下さい。
-
計画停電の実施に伴い、店舗・事業所等を休業した場合、原則として労基法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しません。よって、その間に対し休業手当を支払う必要はありません。
ただし、停電時間以外の時間を休業した場合は、事業主の判断と解する部分が多く、休業手当の支払いが必要となる場合があります。個々の状況により異なりますが、この度の東北地方太平洋沖地震に関連して、厚生労働省よりこの計画停電による休業の際の賃金の取扱いについて、平成23年3月15日に通達が出されました。この通達によりますと、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて休業する場合も、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて原則として労基法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当しないとされています。
計画停電で電車ダイヤが乱れ、遅刻・早退・欠勤はどうするのかという問題があります。その時間又は1日の賃金を控除するか、あるいは、年次有給休暇を付与するかは労使の話し合いで決定し、お互いに痛み分けすることが大切です。
自宅に帰れないため、宿泊することになった場合のホテル代は会社が負担するべきか。電車が止まっているためタクシーで会社に来たときの運賃、他の路線で来たときの交通費を会社が負担するべきか。
労働者の使用者に対する労働提供義務は「持参債務」です。つまり、労務に提供という債務の履行のための費用は労働者が負担すべきものとされています。従いまして、ご本人の事情によるものはもとより、この度の地震の影響で自宅に帰れなくなりホテルに宿泊した費用、急遽、タクシーを利用した費用、他の路線で出勤した場合の交通費などは、原則として会社は別途の費用負担を負う義務はありません。
-
パソコンの私用メールを理由に懲戒処分はできますか?
-
パソコンの私的使用を禁止する旨の就業規則の規定が設けられている場合、職務専念義務違反を理由に懲戒処分をすることができます。しかし、ルール上は私用禁止でも、実態として黙認されているような状況下では、業務に支障が生じている、職務専念義務違反がはなはだしいなどの事情がないと、メール私用だけを理由にした懲戒処分は難しいです。
また、目に余るという状況でも、いきなり懲戒処分ではなく、まず注意・指導をし、それでも改まらない場合に謹慎など軽い処分を検討することになります。
最近の裁判例では、私用メールについては、就業時間中に世間話や同僚のうわさ話といった業務に直接関係ない話をすることは一般的に行われていることであり、全てを職務専念義務違反に問えるものではないとしました。(北沢産業事件 東京地裁 平19.9.18判決)つまり、私用メールのやり取りが、社会的に許される範囲を超え、職務に支障が出る程度のものであるかが問題となるとしました。
問題発生の事態に備えて、インターネット等の私的使用禁止の条文を規定して、従業員の注意を喚起することはトラブルの未然防止となります。また、私的私用が頻発した場合に、調査(モニタリング等)を行うことについても、規定しておく必要があります。
というのも、会社のパソコンであっても、従業員のプライバシー侵害の問題があり、必要性もなく、行き過ぎた態様でのモニタリングを行うことは問題となるからです。
また、突然のモニタリングは、従業員との信頼関係を崩壊させてしまうこともあります。どのような場合にどのような方法で調査を行い、またどのような行為が懲戒処分の対象となるか明確にし、適切な運用を行う必要があります。
-
試用期間中と本採用後の賃金を区別して設定してもよいのですか?
-
使用者が賃金制度をどのように設定するかは法令に違反しない限り自由です。また、「試用期間中の者」と「正社員」という差異は労基法第3条(均等待遇)でいうところの「社会的身分」にも該当しないと考えられるため、試用期間中の賃金と本採用後の賃金を区別して設定することは違法ではありません。したがって、試用期間中の者について、本採用後よりも低い賃金を設定することは最低賃金を上回っている限り可能です。
労基法上は、賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項(労基法第89条第2号)とされていますが、労働者に対する具体的な賃金額については、最低賃金法を上回っている限り、これを規制する法令はありません。また、試用期間中の者は、使用者においてその適性等を観察されているのであり、本採用後の正社員と同様に業務が遂行できる段階には至っていると思われますし、使用者も試用期間中の者に対して、本採用後の正社員と同様の成果等を求めているものではないと考えられます。したがって、試用期間中の者と本採用後の正社員との賃金額を区別して設定すること自体、直ちに違法と評価されるものではないと考えられます。
また、労基法第3条は「使用者の、労働者の国籍、信条または社会的身分を理由として、賃金、労働時間そのほかの労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。」を定めています。しかし、同条でいう「社会的身分」とは、労働者が自分の意思で逃れることのできない社会的な分類を指すものと解されており、行政解釈も同様です。
上記のことから考えると、「試用期間中の者」と「正社員」という差異は、「社会的身分」には該当しません。よって、賃金の取扱いを区別していたとしても、労基法第3条に違反するものではないと考えられます。
-
社命での接待ゴルフ中のけがは、労災保険の適用となるでしょうか?
-
接待ゴルフ中のけがが労災と認められるためには、それが、「業務上の負傷」と言えなければならず、そのためには、①事故が業務遂行中のもので、かつ、②けがが業務によるものでなければなりません。この接待ゴルフが事業運営上絶対的に必要なものであり、かつ、会社の積極的特命によるものだと立証できれば、労災適用の可能性がないとはいえません。しかし、仕事をするために絶対必要な接待ゴルフがあるとも考えられず、労災の適用はかなり難しいです。
接待の定番といえばゴルフですが、ゴルフでけがをする人は意外と多いようです。これが会社の業務遂行上必要なものであった場合には労災の適用はあるかどうか。実務的にはよく問われるケースです。
接待ゴルフは、打ち合わせや情報交換にも使われますが、主な目的は、単に親睦を図ることにあると思われますので、この際のけがは、業務遂行中のものとはいえないということになります。
そうでないとすると、単なる接待のためにする宴会の類のものも、広く業務の遂行と解されることになって、その出席途上での死傷も業務上のものであるとして労災保険の請求ができることになってしまいます。
判例も取引先企業と主催したゴルフコンペに社長命令で参加した従業員が、その道中で交通事故死したケースでさえも労災とは認定しない例がありました。(高崎労基署事件 高崎地裁 昭50.6.24判決)したがって、接待ゴルフに関連するけが等は労災の認定は非常に厳しいと考えられます。せいぜい会社負担のお見舞い金を出す程度になるのが実情です。また、会社として労災に準じて法律を上回る形で補償するのは、もちろん企業の自由です。
-
自主的に行われる残業は時間外労働になりますか?
-
使用者が労働者に明示の残業命令を行った場合には、労働者が使用者の指揮命令下に労務の提供を行うことは明らかであり、労働時間に当たることはいうまでもありません。それでは黙示の場合はどうなるでしょうか。使用者としては、明確に労働者に時間外労働を命じていないものの、労働者が残業しているのを黙認しているといった事情があれば、労働者に対して黙示の指示をしたものとされ、当該残業が時間外労働に当たる可能性は高くなります。
残業時間の労働時間制の認定について、近時の裁判は、事実上、労働者側の立証責任を軽減する方向にあり、使用者に明確な指示がなかったとしても、「少なくても黙示の指示があった」として、その労働時間性を肯定する事例が目立つようになっています。
例えば、ユニコンエンジニアリング事件(東京地裁 平16.6.25 判決)は、「労働時間とは労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間だけではなく、使用者の明示又は黙示の指示による等の業務に従事する時間を含むというべき」としています。
また、かんでんエンジニアリング事件(大阪地裁 平16.10.22)は、「所定労働時間内に終了不能な業務を与えていた」ことを認定し、自己申告制での残業申告を本人が行っていなかったとしても、所定労働時間を超えた時間外労働があったことは否定すべきではないと判示して、労働者側の請求を認容しています。これらの判例動向を前提とすれば、労働者の時間外労働については、企業側からの明示の指示が認められない場合といえども、「黙示の業務指示」という法理論構成で、その「労働時間性」が認められる可能性が極めて高いといえます。
-
自主的に行われる残業は時間外労働になりますか?
-
使用者が労働者に明示の残業命令を行った場合には、労働者が使用者の指揮命令下に労務の提供を行うことは明らかであり、労働時間に当たることはいうまでもありません。それでは黙示の場合はどうなるでしょうか。使用者としては、明確に労働者に時間外労働を命じていないものの、労働者が残業しているのを黙認しているといった事情があれば、労働者に対して黙示の指示をしたものとされ、当該残業が時間外労働に当たる可能性は高くなります。
残業時間の労働時間制の認定について、近時の裁判は、事実上、労働者側の立証責任を軽減する方向にあり、使用者に明確な指示がなかったとしても、「少なくても黙示の指示があった」として、その労働時間性を肯定する事例が目立つようになっています。例えば、ユニコンエンジニアリング事件(東京地裁 平16.6.25 判決)は、「労働時間とは労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間だけではなく、使用者の明示又は黙示の指示による等の業務に従事する時間を含むというべき」としています。また、かんでんエンジニアリング事件(大阪地裁 平16.10.22)は、「所定労働時間内に終了不能な業務を与えていた」ことを認定し、自己申告制での残業申告を本人が行っていなかったとしても、所定労働時間を超えた時間外労働があったことは否定すべきではないと判示して、労働者側の請求を認容しています。
これらの判例動向を前提とすれば、労働者の時間外労働については、企業側からの明示の指示が認められない場合といえども、「黙示の業務指示」という法理論構成で、その「労働時間性」が認められる可能性が極めて高いといえます。