労務相談Q&A
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従業員からの突然の退職申し出を拒否できますか?
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労働者の都合による退職については、労働基準法上には明確な定めはありません。
しかし、民法627条には、「当事者が雇用の期間の定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。」という規定があります。つまり、2週間後には退職することができるということです。会社としましては、仕事の引継ぎや後任の手配など、会社の労務管理に必要な期間を考慮して、退職予告期間を、「1ヵ月前」と就業規則や雇用契約書に明示することが妥当です。ただし、就業規則や雇用契約書に関わらず、労使間で合意があった場合には即日の退職なども可能です。
民法627条の規定に従えば、自己都合退職の場合に、会社に退職の申し出をして2週間が経過すれば、会社側がこれを拒否したとしても退職が自動的に有効に成立するということになります。
ただし、月給制の場合においては、賃金の支払い計算期間の前半に申し出た場合は、その期間が満了するまで、後半に申し出た場合は次の支払い計算期間の満了まではできないということになります。労働基準法では、賃金は毎月1回以上支払わなければならないことになっているので、労働者側からの退職の申し出は、法的には2週間から遅くとも45日くらい経過すると有効に成立することになると考えられます。
ところが、会社によっては自己都合退職の場合には、就業規則等で退職願(届)は退職する日の1か月前までに提出しなければならないというように定めてある場合が多く見受けられますが、そのような場合に民法の規定とどのように整合性をはかればよいのでしょうか?結論的には、賃金の支払い計算期間の前半に申し出た場合は民法の規定が優先し(つまりその計算期間の満了をもって退職となる)、後半に申し出た場合は就業規則が優先する(つまり1か月後をもって退職となる)と考えるのが妥当とされています。
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出張中の移動時間は時間外手当の対象にならないのですか?
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出張時の移動時間は、労働時間ではないという説と労働時間であるという説があります。
移動時間中に、特に具体的な業務を命じられておらず、労働者が自由に活動できる状態にあれば、労働時間とはならないと解するのが相当といえます。
ただし、出張の目的が物品の運搬自体であるとか、物品の監視等について特別の指示がなされているとか、特別な病人の監視看護に当たるといった場合には、使用者の指揮監督下で労働しているといえますので、労働時間に含まれると考えるべきでしょう。出張中の移動時間は、日常出勤に費やす時間と性質的に同じか、類似したものと考えられ、労働時間に算入されず、時間外手当の対象とならないとするのが相当です。
出張の際の往復の旅行時間が労働時間に該当するかどうかについては、通勤時間と同じ性質のものであって労働時間ではないとする説と、移動は出張に必然的に伴うものであるから、使用者の拘束のもとにある時間とみて、労働時間であるという説、使用者の拘束のもとにあるが、特に具体的な業務に従事することを命じられているわけではないから、労働時間とはいえないとする説などがあります。この点、裁判例には、「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起こり得ないと解するのが相当である」とするものがあります。(日本工業検査事件・横浜地判川崎支判昭和49年1月26日)
出張中の移動時間については、その時間中に処理すべき用務について特段の指示がある場合を除き、労働時間とみなされず、したがって、時間外手当の対象とはならないとする説が相当と考えられます。
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家族のインフルエンザで社員の自宅待機は有給ですか?
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労働安全衛生法第66条と労働安全衛生規則第61条では、「病者の就業禁止」に関する規定がありますが、季節性インフルエンザやノロウィルスはこれに該当しません。
社員が発症していないとなれば、家族が発症しているだけでは自宅待機を命じる根拠を見つけることは難しいです。
インフルエンザもノロウィルスも“会社の責任”ではありませんが、法令で就労が制限されるわけでもなく、単に感染の疑いのあるという社員を自宅待機とする理由は、感染を予防したい会社側の必要に基づくものといえます。社員を自宅待機させる場合、少なくとも『自宅待機期間中』については、労働基準法第26条の規定により平均賃金の60%を休業手当として支払う必要があります。
自宅待機中の給与について、対応はつぎの3通りに分かれます。(1)待機中も全額支給する、(2)待機中については、ある程度支給する(一部控除)、(3)待機中は支給しない(全額控除) このうち、(1)は問題になりえません。問題となるのは(2)(3)の場合です。
実際には有給休暇の残日数があれば、自宅待機期間中を有給休暇で処理する方法もありますが、社員が拒んだり、有給休暇の残日数がなかったりした場合の対応は難しいものとなります。
労働基準法第26条(休業手当)では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定められています。
この場合、「インフルエンザによる自宅待機」が使用者の責めに帰すべき事由かどうかという点がポイントになりますが、この規定は労働者の生活保護が目的とされているため、「使用者の責めに帰すべき事由」への該当については、幅広く認められています。
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海外留学や国内研修に派遣していた社員が、帰国・終了後ただちに退職したいと申し出ました。留学や研修の費用を請求できるでしょうか?
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会社が費用負担した留学や資格取得後の退職は、企業にとっての損失も大きいでしょう。
しかし、留学前に「○年間は退職しません」という誓約書をとったとしても、民法627条により期間の定めのない労働者はいつでも解約できるため、その効力はありません。
また、負担金額の返済規定は、労基法16条(賠償額の予定禁止)に抵触するおそれがあります。判例では、その留学に業務性があれば無効(富士重工事件)とされ、業務性を帯びない自発的なものであれば有効(長谷川コーポレーション事件)という判断です。この場合、研修費用を金銭消費貸借契約として、復職後一定期間の勤務を条件に費用の返還を免除する規定にしておくとその問題を回避できます。
負担金額の返済規定は、労基法16条(賠償額の予定禁止)に抵触するおそれがあります。下記の規定例のように、一定期間の継続勤務があれば弁済免除するという、留学費用の金銭消費貸借契約とし、費用返還が労働契約の履行・不履行と無関係に定められている場合は、労基法16条に抵触しないと考えられます。なお、一定の期間は、民法626条との均衡から「5年以内」が望ましいでしょう。
【留学費用の返還規定】
(留学費用)
第○○条 会社は、留学する社員に対し、次の各号の費用を貸与するものとし、貸与は必要に応じて随時行う。この貸付金は無金利とする。
2 留学終了後、会社に復帰して5年以上勤務した場合は、前項により貸与した留学費用の返還を免除する。また、留学した社員が、留学中又は帰任後5年以内に死亡又はその他やむを得ない理由により返還不能となった場合、健康上の費用により留学の辞退がやむを得ないと認められる場合には、貸与費用の全部又は一部の返済を免除することがある。
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パートタイマーからの有期労働契約の中途解約は可能ですか?
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労働契約には、契約期間の定めがあるいわゆる有期雇用契約と、期間の定めのない無期雇用契約があります。
パートタイマーの方との契約が、期間の定めのない無期雇用契約の場合は、民法627条の規定によって、いつでも解約の申し入れをすることができます。
一方、契約期間に定めのある有期の労働契約の場合は、民法628条の規定によって、「やむを得ない事由」がある場合に限られます。しかし、労基法では当分の間、契約期間の初日から1年を経過すれば、労働者のほうからは、「やむを得ない事由」がなくても、使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができるとされています。
ただし、一定の事業が完了するまでの期間を契約期間とする場合や、契約期間の上限が5年まで認められている場合は、対象となりません。民法628条では、「やむを得ない事由があるときは、各当事者は」と,契約当事者双方に適用される条文であることがわかります。すなわち、使用者からだけではなく労働者からも「やむを得ない事由」がない限りは、有期労働契約を中途解約することはできないということになります。
労働者側からの「やむを得ない事由」にはどのようなものがあるかですが、例えば、「使用者が労働者の生命・身体に危害を及ぼす労働を命じたこと、賃金不払い等の重大な債務不履行、労働者自身が負傷・疾病により就労不能に陥ったこと等」が挙げられます。
なお、この例で考えると最初の二つは労働者に過失があるとは考えられませんが、労働者自身の負傷・疾病による就労不能は労働者に過失が認められる可能性があるので、場合によっては損害賠償責任を負わなければならないということが考えられます。
そうはいうものの、労働者自身の負傷・疾病により労働者から中途解約の申し出があった場合に、会社がこれを受理することは自由と解されます。
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休日に関する基本ルールを教えてください。
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労基法では、毎週少なくとも1回(「1回」とは暦日つまり午前0時から午後12時までのことをいいます。)の休日を与えればよいことになっています。
したがって、土曜日・日曜日を休日とする週休2日制を採用している会社では、土曜日に出勤させたとしても、その週の日曜日に休みを与えていれば、法律上はかまわないこととなります。
年中無休、24時間営業を掲げる店などでは、シフト表を作成する中で「毎週少なくとも1回」の休日を与えることが難しいこともあります。これについて労基法では「4週間を通じ4日以上の休日を与える」ことを条件に「毎週少なくとも1回」の例外を認めています。また、休日については、休憩時間のように一斉に与える必要はありません。法定休日を特定するかの問題があります。厚生労働省が出した通達では、特定することが法の趣旨に沿うので、就業規則で具体的に一定の日を法定休日と定める方法を指導するようにされています。
たとえば、法定休日を日曜日と定めた場合、土曜日に休んで日曜日に勤務させたときは、週1回の休日が取れているにもかかわらず、日曜日が法定休日なので休日割増しが発生します。しかし、法定休日を特定していない場合、土曜日に休んで日曜日に勤務させたときでも、土曜日に休んでいるので週1回の休日がクリアでき、時間外割増しは発生しますが休日割増しは発生しません。労基法は、週休2日の土日が休みの場合は、法定休日を日曜日とするような特定は要求していないところです。ただ1週間に1休日を与えることを要求しているだけであって、特定することまでは、法は要求していないところです。
労基法では法定休日の特定までは、要求していない所ですが、通達に従い、法定休日を前もって何曜日と決めなくても、法定と法定外を区別することを就業規則に規定しておくとよいでしょう。
【規定例】
① 毎週の休日のうち、休日労働のない最後の日またはすべての休日を労働した場合の、最後の労働した日を法定休日とする。
② 毎週の休日のうち最後の1回の休日を法定休日とする。
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マイカー通勤者の管理上の注意点について教えてください。
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会社がマイカー通勤を積極的に推奨又は容認している場合には、「通勤は業務ではないが、業務に従事するための準備行為であるから業務に関連するものということができる」として、交通事故の被害者が加害者本人だけでなく社員を雇用していた会社にも、民法715条の使用者責任を問い、損害賠償を命じた判決も出されています。
このことからも、これからは今まで以上にマイカー通勤への対応をしっかり行う必要があります。注意点のポイントは以下の6つです。①マイカー通勤規定を整備し社員に周知する、②許可制にし、許可基準を明確にする、③許可申請時に提出書類の明確化、④任意保険の加入内容も許可要件の一つ、⑤許可取り消し要件の定めをする、⑥事故が発生した場合の対応方法の明確化です。
(1)マイカー通勤規定を整備し社員に周知規定の中に入れる事項①適用範囲 ②許可基準 ③申請時の提出書類 ④任意保険加入要件⑤許可取消要件 ⑥安全運転誓約書 ⑦事故発生の対応 ⑧安全運転教育
(2)許可制にし、許可基準を明確にする 会社の通勤の実態に沿った誰もが納得する基準をもうける
(3)許可申請時に提出書類の明確化 許可申請時には、少なくとも免許証・車検証・任意保険証券・誓約書を添付させることはもとより、マイカー通勤をしなければならない事由・通勤コース記載させる必要があります
(4)任意保険の加入内容も許可要件の一つ 少なくとも対人賠償・無制限、対物賠償・2千万円、搭乗者障害・1千万円が求められます
(5)許可取り消し要件の定めをするどのような場合に許可を取り消すかその基準を明確に定める
(6)事故が発生した場合の対応方法の明確化事故を起こした場合の警察への連絡等はもちろんのこと、社内への緊急時の連絡体制を整えておき、必要に応じ助言指導を受ける
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定額残業代について教えてください。
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残業代について、労働時間を把握し法所定の額を支払うのではなく、毎月固定的に定額の残業代を支払う方法です。定額残業代が合法と認められるためには次の要件を満たさなければなりません。
①残業代に相当する部分が、他の賃金と明確に区分されている
②何時間分の残業代に相当するのか定められている
③実際の残業時間で計算された残業代が定額残業代を超えた場合には、その差額が支払われているよく「残業代を毎月定額で払うようにすれば、後はどんなに残業してもそれ以上は払わなくていいんですよね。」と聞いてくる企業の方がいますが、実際の残業時間が定額残業代相当分を超えていればその差額分は支払う必要があります。残業が少ない月は定額なので働いていない分も余計に払わなければいけないため、定額残業代は会社にとって本来メリットのある制度とはいえないのです。
役職手当、営業手当、職務手当等について、「この手当は月30時間分の残業代に相当するものとする」として定額残業代化することが考えられます。この場合、新規にこれらの手当を設けて定額残業代化することには問題ありませんが、現在ある手当を定額残業代化するためには従業員の同意が必要となります。
なぜならば、現在支給している給与の中から残業代を捻出する、つまり従業員の認識しているであろう自身の基準内賃金を実質引き下げることを意味するからで、従業員にとって“不利益変更”となるからです。やり方によっては従業員のモチベーションに大きなマイナス作用を及ぼしかねないということになります。
もし、従業員の同意が得られて現在支払っている役職手当、営業手当、職務手当等について定額残業代化できればメリットは大きいです。
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自転車通勤を認める場合の注意点について教えてください。
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現在、健康や環境に配慮して通勤に自転車を利用する人が増える傾向にありますが、それに伴い自転車が加害者となる交通事故も急増しています。
そのため、就業規則等で自転車を利用した通勤を禁じていない会社では、自転車を利用して通勤する社員が自転車を安全で適正に利用することができるよう、研修の実施、情報の提供その他必要な措置を講じることが必要です。また、自転車通勤者に対して自転車損害賠償保険等への加入を義務付けます。社員の通勤における自転車の駐車について、必要な場所を確保するか、社員が当該駐車に必要な場所を確保していることを確認する義務が会社にあります。
都道府県において条例等がある場合は、その内容を参考にし、特段条例がない場合は、東京都の条例内容を参考にして自転車通勤に関するルールを決めておくと良いでしょう。【規定例】
(自転車利用許可)
第○条 社員が通勤に自転車利用を予定している場合は、あらかじめ以下の書類を添付のうえ、書面にて会社に申請し、会社の許可を得なければならい。
①自転車損害賠償保険等、自転車利用時の人身、対物事故を担保した保険に加入していることが証明できる書類
②通勤時における駐輪場所が確保できていることを証明する書類
③その他会社が提出を求めた書類
2 会社は、第1項の定めにより申請された内容を確認し、通勤時の自転車利用の可否を本人に通知する。
3 第2項の規定により自転車利用を許可した場合、その期間は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年とする。(左記期間の途中で申請した場合は、許可日からその年度の3月31日まで)なお、自転車利用期間を更新する場合は、期間満了日の1ヵ月前までに書面にて第1項に定めた必要書類を添付のうえ、会社に申請しなければならない。
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身元保証人の責任範囲について教えてください。
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身元保証ニ関スル法律により身元保証人の責任が限定されています。期間については、身元保証の契約期間は5年を超えることはできず、期間を定めないときは3年間に限り有効とされます。また、この契約期間は自動更新することはできません。
使用者は、社員に業務上不適任または不誠実な行為がある場合等、身元保証人の責任に影響を及ぼす場合はこれを身元保証人に通知する義務があります。身元保証人がこの通知を受けたときは、将来に向かって身元保証契約を解除することができます。
身元保証人の損害賠償責任については、使用者の過失の有無、身元保証を引き受けるに至った経緯等諸般の事情を考慮して裁判所が決定することとされていますが、使用者としては、せいぜい2~3割程度の賠償を求め得るにすぎないと考えておくべきでしょう。現実の労務トラブルとして行方不明社員の実務対応があります。社員の失踪・行方不明という問題は、どんなトラブルでも相手があることですが、その相手がいない、連絡がとれない「行方不明」であることにその対応の難しさがあります。
対応にあたっては、「会社が勝手にできない」行方不明社員本人の意思に関わる事項が出てくるため、親族や身元保証人との連携は重要なポイントとなってきます。この身元保証人は、本来社員の不正行為や過失による損害発生時のリスクヘッジなどを目的としたものですが、トラブルが生じた際の緊急連絡先や身元引受人としての意義が大きいのではないでしょうか。社員に近く、それなりに客観的な立場でトラブルの処理に立ち会ってもらえる身元保証人の理解と協力があれば、大きなトラブルに発展することは少ないと思われます。