労務相談Q&A

faq

副業を認める場合の注意点を教えて下さい。

日本では、就業規則、雇用契約などで副業を一律に禁止する企業が多く、社員に対して社内の仕事だけを忠実に行うよう、職務専念義務を厳しく考える傾向が強いと言えます。
ですが、少子高齢化による労働力人口の減少、長時間労働に対する規制、労働時間の柔軟化、多様な従業員の活用といった最近の風潮からすれば、一律の禁止は改めて検討するべき事柄です。

副業は自由であるというのが法律上の原則ですが、雇用契約を締結している以上一定の制約は許され、ある一定の程度を超える副業は法律上も禁止することが可能です。
労働時間の通算、労災への対応とともに、自社の業務と競合するような会社での副業は禁止するや疲労やストレスを溜めさせないということも注意が必要です。

副業の実態を把握し、適切に管理するためにも、副業に関する就業規則をしっかりと定め、ルールを明確化することが大切です。
副業を認める場合の選択肢は、・許可制にする ・届出制にする ・完全解禁するが考えられますが、完全解禁は好ましくない副業の可能性もあるため、会社秩序を守るという観点からは、一定の歯止めを設けるという視点が必要かと思います。
副業を認めるとはいっても、正式な手続きをとらず、隠れて副業をすることは懲戒処分の対象となります。

副業先への移動の際に生じた通勤災害については、労働者災害補償保険法上の保護が図られることになっていますが、36協定による時間外勤務・休日出勤命令との調和、現行法ではまだ規制のかかる労働時間通算の問題、社会保険・労働保険上の休業給付等の算定の問題など、留意すべき事項も多々あります。
副業を認めるということは一つの会社の仕事だけでなく社外の仕事を経験することにより、会社の枠を超えた技術、ノウハウ、人脈を培うことができ、人材の多様性を成長させることが可能となり、ボランティアやNPOといった活動に貢献したりすることによって企業自体の社会貢献にも繋がると思います。

健康診断の再検査は会社が強制できますか?

労働安全衛生法において、1年に1回(深夜業務従事者は6ケ月に1回)の定期健康診断の実施を使用者に義務付けています。
健康診断の実施後、使用者は労働者に対し、検診結果を通知することも義務付けられています。
ただし、法令で義務付けられているのはここまでです。要再検査の診断があったとしても、厚生労働省の指針において、「再検査を要する労働者に対し受診を勧奨することが適当である」とされているまでで、再検査を受けさせることは義務ではありませんし、再検査の費用負担についても定められていません。
しかしながら、使用者には、労働者の心身の健康を管理し、配慮しなければいけない安全配慮義務があります。この点から考えると、使用者は再検査を業務命令で受診させるべきであり、業務命令である以上、費用も使用者が負担すべきです。

まず会社として再検査の受診を命令として課すためには、就業規則にその旨の規定があったほうがよいです。
しかし、懲戒処分とできるか否かは慎重に判断する必要があり、裁判例の中に、使用者の再検査の受診命令について、労働者には自己の信任する医師を選択する自由、およびあらかじめ医師の医療行為につき説明を受けたうえで、これを受診する否かを選択する自由があることを根拠に、その命令を無効とし、その命令違反にもとずく懲戒処分を無効としたもの(電電公社帯広局事件・札幌高判昭和58年8月25日)があります。
ただし、この事件は最高裁(電電公社帯広局事件・最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決)にも進んでおり、ここでは懲戒処分を有効と判断しています。悩ましい問題ですが、再検査は法律で受診を義務づけていないため、懲戒処分することは行き過ぎかもしれません。

緊急呼び出しに備えた自宅待機の時間は労働時間ですか?

労働基準法の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間。
裁判事例では仕事をしている時間ではなく、指揮命令に服している時間を言い、例えば、店員さんが顧客を待っている間のいわゆる手待時間は、その間特に実作業を行っていなくとも、一般に労働時間に当たると解されています。

ビル管理会社の従業員が管理・警備業務の途中に与えられる夜間の仮眠時間も、仮眠場所が制約されることや、仮眠中も突発事態への対応を義務付けられていることを理由に、労働時間に当たるとする判例が多く見られます。
しかし、法律上の解釈では、労働時間には労働者が単に観念的・抽象的に拘束されている時間までも含まないということになっており、自宅待機を命じたり、会社の携帯電話を携行するよう命じたとしても、呼び出しがない時間については、どのような時間の過ごし方をしていても基本的には自由であり、呼び出しを受けて実際の仕事をしない限り、労働したことにはならないという解釈になります。

自宅待機をしている時間は使用者の直接的拘束が及ばず、原則として自宅待機している時間は労働時間には該当しません。
自宅待機の性格から考えて、それに対する手当についても法的には制約がありません。法律上からは、使用者は賃金や手当を支払う必要はないということになります。

ですが、宿日直の許可基準たる1人1日平均の賃金の3分の1程度(昭22.9.13 発基第17号、昭63.3.14 基発第150号・婦発第47号)というのが参考になると思います。
自宅待機の時間は自由だとしていても、実際には「行動の制限」「行為の制限」があり、これを強制的にさせたい場合は強い拘束力として労働時間ととられる場合があります。そのため多くの場合「自宅待機手当」という形で1回の待機につき、対応頻度や重要性を考慮して手当をつけているようです。

緊急対応がなくても支払われる類の手当ですが、これらを就業規則に盛り込むことである程度の拘束力を持たせることが出来ると考えます。
自宅待機に対し労働者を事業場で待機させた場合は、使用者の支配領域である事業場という場所的な拘束がある上、待機時間中も対応等に備えておかなければならないので、使用者の現実的な拘束の下にあると評価され労働時間に含まれると考えられます。

経歴詐称があった社員にどう対応したら良いですか?

まずは社員に対し、履歴書記載の事実や面接時での応答が事実と違っていたことを説明し、そのこと自体が雇用関係に重大な支障を来すことにつき説明します。
社員からは、詐称した理由を聴取します。社員の説明に合理的な理由がない場合、まずは自主退職を促すのが好ましいでしょう。
懲戒解雇は社員に大きな不利益をもたらすところ、処分の有効性をめぐって紛争に発展する可能性が大きいからです。
条件付で解雇する方法(一定期間内に退職願の提出を勧告し、提出があれば依願退職扱いとし、提出がなければ解雇とする)も一つの方法です。

自主退職を促したにもかかわらず、社員がこれに応じない場合に、解雇や懲戒解雇を検討します。
採用後の業務に関連する重要な経歴に関し経歴詐称がなされ、会社が事実を知っていればその者を採用しなかったといえる場合、会社は、当該問題社員を懲戒処分や、場合によっては懲戒解雇に付すことができる場合があります。

会社が社員の採用にあたって経歴の申告を求めるのは、当該社員の労働力が会社の求める条件に合致しているかどうかを判断し、また採用後の社員の職務の決定、職場への配置及び賃金その他労働条件を決定する資料を得るとともに、企業秩序維持に関する事項を踏まえ、その者の採否を決定する資料を得ることにあります。

労働契約では信頼関係が基礎となりますので、会社がこれらの点について必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、社員は、真実を告知すべき義務を負っているものといえます。
経歴詐称は、この真実告知義務に反し、企業秩序を侵害するものとして、懲戒事由となります。

なお、懲戒事由になるためには、経歴詐称が懲戒事由となる旨の就業規則や労働協約等の定めが必要です。
経歴詐称を理由とする懲戒解雇が認められるためには、社員が、「重要な経歴」を詐称したことが必要です。
「重要な経歴」とは、社員の採用の決定や採用後の労働条件の決定に影響を及ぼすような経歴であり、当該偽られた経歴について、通常の会社が正しい認識を有していたならば雇用契約を締結しなかったであろう経歴を意味します。
主に学歴、職歴、犯罪歴、病歴等がこれに該当しますが、当該社員の職種などに応じて具体的に判断されます。

配置転換を従業員に拒否されたら、どうすればいいのでしょうか?

適法な配置転換を受けた従業員には、配転先で業務を行う義務が生じます。
そのため、配転を拒否して、配転先の仕事に従事しないことは、労働者としての労務提供義務を果たしていないことにほかならないですから、懲戒処分の対象となります。
しかし、懲戒解雇などの厳重な処分をするにあたっては、大変慎重な取り扱いが必要です。
最終的に懲戒解雇をするとしても、手順を踏むことが大切です。

まず、配転を拒否した従業員との間で、配置転換後の配置先、業務内容、生活の変化、会社のサポート体制について情報提供をし、話合いをすることが重要です。
従業員との間で、話し合いや説得を重ねたとしても、依然として配転を拒否する場合や、話し合いそのものを拒否する場合には、次の段階である懲戒解雇処分をすることになります。

配置転換を命ずる場合、就業規則等で定めている必要があり、権利の濫用に当たるかどうかが問題となります。
では、権利の濫用に当たるのは、どのような場合でしょうか?①その配置転換について業務上の必要性が無い場合、②必要性があったとしても他の不当な動機がある場合、③労働者にとって通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合等が挙げられます。

中でも問題になりやすいのは、どの程度の不利益が「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」と判断されるのかという部分です。
疾病、障害等のある複数の家族を支える社員の転勤については、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」(フットワークエクスプレス事件、大津地決平成9年7月10日)と認定されたように、余程の事情がない限りは権利の濫用には当たらず、その異動命令は有効と判断されるようです。

よって有効性のある人事異動命令を最終的に拒否する社員に対しては、重大な業務命令違反として懲戒解雇もやむを得ないことになります。
ただし即時懲戒解雇は無効と判断される場合がありますので、処分の前に必ず話し合いの場を設け、検討する時間を社員に与える等、会社側の歩み寄る姿勢が重要となるでしょう。

半日有給休暇取得後、残業したときの割増手当はどうなりますか?

 例えば、9時~18時勤務(休憩1時間)の人が半休を取得し、14時に出勤し18時以降22時まで勤務した場合。
労働基準法に定められた時間外労働割増賃金の対象は、1日8時間又は1週40時間の法定労働時間を超えて労働させた場合となっており、所定労働時間は超過しているように思いますが、実質の勤務時間は14時~22時の8時間です。
労働基準法に定められた1日8時間の枠は超えていないことになりますので、時間外手当は必要ありません。

有給休暇は本来労働者の疲労回復を目的としていますので、半休取得して午後定時以降も働いたのでは有給取得の意味がなくなってしまいます。可能な限り、半休取得した日は、定時を超えて労働しないよう指導されることが良いでしょう。

会社で定めた労働時間である所定外労働時間に対して、ただちに残業を支払わなければならないということはありません。
実際に労働した時間が8時間を超えた時点から割増賃金が発生すると考えます。
有給休暇は出勤したものとみなされますが、勤務時間としてはカウントしないということです。

月例賃金を考えたときは1日あたりの賃金は有給取得した半休の時間+午後の14時から18時までの分になりますので18時から22時までの時間数分は賃金に含まれていません。
このことから、割増賃金は発生しませんが、時間あたりの賃金は4時間分支払わなければなりません。

ただし、就業規則等で定めがある場合は別です。
「始業時刻前または終業時刻後の勤務には割増賃金を支払う」と規程している場合は、これに従うことになります。
労働基準法を上回る就業規則の規程は、就業規則が優先されます。上記の場合、18時から22時までの4時間分を2割5分増しで支払うことになります。

従業員の定期健康診断係に係る費用は、全額負担しないといけませんか?

労働安全衛生法では、企業は1年以内ごとに一回常時使用する従業員に対し、医師による健康診断を受けさせなければいけないとされています。
ここで言う従業員とは、期間の定めのない契約で、労働時間が通常の労働者の3/4以上であれば、時給者も対象となります。
通達では、その定期健康診断に係る費用は、法律で義務付けている以上、当然会社が負担すべきであるとされています。
ところが会社指定以外の任意で受けた健康診断については、定めが無い為、負担義務はありません。しかし公平性の観点から考えると負担してあげた方が良いでしょう。
ゆえに、福利厚生制度の向上、健康管理事務の一元化、経費削減へと繋がる事を考えると、指定医療機関を定める事をお勧めします。

定期健康診断が義務付けられているのは前述の通りですが、その受診時間を労働時間と同等の扱い、つまり支払義務が発生するかどうかについては、難しい問題です。
一般健康診断は、「一般的な健康確保を図る目的で、実施義務が課されているものであり、業務遂行との関連で行われるものではない。」一方、特殊健康診断は、「事業の遂行に絡んで当然実施されなければならない性格のもので、所定時間内に行われるのを原則とする」とされています。(S47.9.18基発602号)。

つまり、特殊健康診断の実施に要する時間は、指揮命令下に置かれている労働時間と解されるので、時間外に行われた場合は、割増賃金を支払わなければならない。」とされているのに対し、一般健康診断の受診時間は「労働者の健康の確保は、事業の運営に不可欠な条件である為、その受診時間の賃金は支払う事が望ましい」とされており、必ずしも事業者が支払わなければいけないものではありません。
トラブル防止のため、事前に労使協議し、有給か、無給かを決めおくべきでしょう。

労働契約書上の使用者は、社長でなければいけませんか?

労働契約は、「使用者」と「労働者」の間で締結される契約です。労働契約上の「使用者」とは、「労働者」を使用し賃金を支払う者とされています。

通常、労働契約上の使用者とは「労働者」を雇った者です。使用者というと、社長や代表者などの事業主をイメージしますが、労基法第10条にいう使用者は、事業主のほかに、「事業の経営担当者」、「その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」も含まれています。
「労働者に関する事項」とは、労働条件の決定や労務管理を行うこと、業務の命令や具体的な指揮監督を行うことなどのすべてが含まれますので、これらについて「事業主のために行為をする者」であれば、すべて使用者に該当することとなります。したがって、工場長や総務部長が労働契約書上の使用者になる場合があります。

労基法第10条の定義する「使用者」とは、労基法上の規制について責任を負い、同法違反に対して罰則の適用を受ける者のことであり、社長と同義語ではなく、もっと広い概念で考えられています。
取締役のみならず、人事部長、工場長なども該当しますが、あくまでも概念であり、使用者かどうかは実態で判断されることとなります。労働契約上の「使用者」の定義とは異なります。

その趣旨は、労基法の規制事項について現実に使用者として行為した者を規制の対象とすること(行為者処罰主義)にあります。
現実に、労基法違反の行為を行った者(たとえば違法な時間外労働命令を行った工場長)が罰則の対象となりますが、両罰規定により事業主に対しても罰則が適用されます。

労基法が各条の義務について履行責任者を使用者としていますが、その認定は、部長、課長等の形式にとらわれることなく、実質的に一定の権限を与えられているか否かによりますが、単に上司の命令の伝達者にすぎない場合は使用者と認められません。
取締役や部長などの地位の高い人から現場監督や主任など比較的低い人まで、その権限と責任に応じて判断される者であって、いわゆる職位のみで使用者となるかどうかが結論付けられるものではありません。

雇い入れ時の健康診断で留意する点を教えて下さい。

 雇い入れ時の健康診断は、入社後の適正配置や健康管理に役立てるために実施するものであって、応募者の採否を決定するために実施するものではありません。
健康診断については、応募者の適性と職務遂行能力を判断するうえで、合理的かつ客観的にその必要性が認められる範囲に限定して行うべきものです。
特にB型肝炎ウイルスとHIVの血液検査については、就業差別につながるというのが行政の一般的解釈です。
雇い入れ時の健康診断において何らかの疾病が発見されたとしても、その疾病が、労務提供に支障を生じるような場合は別として、そうでない限りは、採用内定を取り消すことは客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由とは認められないことになると考えられます。

雇い入れ時の健康診断の実施を義務付けられるのは、常時使用する労働者を採用するときに限られるが、正社員に限るということではありません。
パート、嘱託社員等であっても期間を定めずに雇い入れる場合はもとより、期間の定めがある場合でも、定期健康診断の周期(通常の場合は1年、特定業務従事者の場合は6ヵ月)を超えて更新することが予定されているような場合あるいは、1週間の労働時間が同種業務に従事している労働者の4分の3以上ある場合には、雇い入れ時の健康診断を行うべきです。

健康診断項目は、①既往歴および業務歴の調査、②自覚症状および他覚症状 の有無の検査、③身長、体重、視力および聴力の検査、④胸部エックス線検査、 ⑤血圧の測定、⑥貧血検査、⑦肝機能検査、⑧血中脂質検査、⑨血糖検査、⑩尿検査、⑪心電図検査です。

雇い入れ時の健康診断の検査項目は、定期健康診断の場合と異なり、医師の判断による省略は認められていません。ただし、当該労働者が採用前3ヵ月間に医師による健康診断を受け、その健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、その健康診断項目については省略することができます。

歩合給と残業手当の計算基礎

歩合給制をとっていても労働者である以上労働基準法の適用があり、同法第37条の適用があるわけですから、やはり8時間という労働時間の制限を超えた場合は割増賃金を支払わなければなりません。
歩合給について割増賃金を計算するときは、日給制、月給制の場合のように所定労働時間で除すのではなく、歩合給額を実際に働いた全労働時間で除し、これに2割5分の割増率を乗じて計算します。

歩合給の労働者がある日10時間働いて1万円の歩合給を得たとします。この労働者は1万円の歩合給を得るのに2時間の残業をしているわけです。
そこで、歩合給制の場合の割増賃金の計算方法ですが、10時間働いて1万円の歩合給を得たわけですから、1時間につき1,000円の歩合給を得ていることになります。1,000円の2割5分は250円ですから、1時間当たりの割増分は250円ということになります。この労働者は2時間残業していますから、250円×2=500円を割増賃金として支給すべきことになります。

日給制や月給制などの場合、その賃金は所定労働時間中の労働に対して支払われており、時間外の労働に対して支払われていませんから、労働者が時間外労働した場合は、1時間当たりの賃金の1,25倍の割増賃金を支払わなければなりませんが、歩合給の場合には、上記の例でいえば10時間働いた労働の成果として1万円支払われており、1,25のうち1,0の部分はすでに支払済みとなっているわけです。

労働基準法第37条の割増賃金制度は、同法で定める労働時間の制限を超える労働に対して所定の労働時間中の賃金より2割5分多い賃金を支払わせようとするものです。

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