労務相談Q&A
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36協定を違反したら、どうなるのですか?
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急激な仕事量の増加や人手不足等によって、届出している36協定の時間を超過した場合には、36協定の時間超過違反としまして、労働基準法第119条の「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が適用されます。
対象者は、超過した本人ではなく使用者ですが、残業可否に関する権限を持っている上司等も法律上は使用者とみなされますので、併せて罰則の適用がなされます。しかしながら、一度の突発的な違反行為で直ちに罰則が適用されるケースは殆どありません。
通常ですと、まずは労働基準監督署から是正勧告が出され改善へ向けての措置を求められことになりますので、今後このような事態が発生しないよう早急に人員の配置や業務の分担・プロセスの見直しを図っていくことが重要です。36協定(特別条項付きの場合を含む)で定めた延長時間限度を超過して働かせた場合は、労働基準法第32条(労働時間)、又は、第35条(休日)の定めに対する違反となり、「6か月以下の懲役、又は30万円以下の罰金」の処罰対象となります(同法第119条)。
処罰対象は、「労働基準法上の使用者」ですが、使用者とは、「事業主、又は、事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」と定義(同法第10条)されていますので、当然、ライン上の上司ということになります。なお、労働者本人には罰則は適用されません。
実際に罰則が適用されるか否かは労働基準監督署の判断に委ねられています。現実には一度の違反で即罰則の適用まではいかず是正勧告に留まるのが通常といえますが、内容が重大かつ悪質である等個別事情によっては当然適用される可能性はあります。
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出向社員の労働保険・社会保険の負担について教えてください。
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出向には、在籍出向(以下、「出向」という。)と移籍出向(以下、「転籍」という。)がありますが、転籍の場合は、出向元との雇用関係をいったん終了し、出向先と新たな雇用関係を結ぶことになりますので、転籍の場合の労働保険・社会保険は、すべて出向先での適用となり、転籍先の社員と同じ扱いとなります。
しかし、出向の場合には、出向社員は出向元、出向先の両方と雇用関係を持つことになりますので、労働保険・社会保険によって扱いが異なります。
まず、労災保険の場合は、労働者が労務を提供しているほうで適用されます。つまり、出向先が負担することになります。雇用保険、健康保険、厚生年金保険につきましては、賃金支払者が負担します。労災保険は、出向者の場合、通常出向先の業務を処理しているため、当然に出向先企業の労災保険の適用を受けます。出向元から給与が支払われている場合は、出向元から支払われている給与を出向先から支払われている給与とみなし、出向先から支払われている給与と合算して保険料を算定することになります。
雇用保険は、その者が生計を維持するに必要な主たる給与を受けている雇用関係についてのみ成立することになるため、どちらか給与支払額の多い方に保険関係が成立することになります。
出向先で給与を負担する場合は、出向元での資格をいったん喪失し、出向先会社での資格を取得することとなります。給与を折半する場合は、どちらかを選択することになります。健康保険・厚生年金保険は、出向先が全額給与を支払っている場合は、出向先の社会保険に加入することになります。同様に出向元が全額給与を支払っている場合は、出向元の社会保険に加入することになります。両方から給与が支給されている場合、どちらか一方で保険関係が成立し、標準報酬月額を算定する場合は、出向元、出向先の給与を合算して計算します。
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出向と労働者派遣の違いを教えてください。
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出向と派遣は、出向元・派遣元との間に雇用契約関係を維持したまま、第三者の指揮命令を受けて労務を提供するという点では類似の関係にあるといえます。
では、出向と派遣はどこが違うのでしょうか。出向の場合は、労働契約上の権利・義務を出向元と出向先で分担して持っていると考えられています。
もちろん基本となる雇用契約は出向元との間にありますが、出向契約(出向先と出向元との契約)を通じて、使用者としての権利・義務の一部が出向先に移ると考えるわけです。これに対して派遣は、使用者としての権利・義務は派遣元に残り、派遣契約(派遣先と派遣元との契約)を通じて、指揮命令権だけが派遣先に移ると理解されています。つまり、派遣労働者を使用する権利を、派遣元が派遣先に貸し出すというイメージです。出向の場合は、労働者に対する使用者としての権限や責任を、出向元と出向先の双方で持ちます。
たとえば出向労働者に対して懲戒処分を行う場合、出向元と出向先は、それぞれの権限の範囲において懲戒を行うことができます。
これに対して派遣の場合は、懲戒処分を行えるのは派遣元だけに限られます。派遣労働者が派遣先に損害を与えた場合は、派遣先は派遣元に対して損害賠償請求を行うことになります。
出向の場合で、雇用契約が出向先へ移ったとすると、労働時間の変更や給与の支払いは出向先で行うこととなります。しかし派遣の場合は、雇用契約は派遣先へは移らず、あくまで業務に関する指揮命令権だけが移るので、業務の都合により労働時間を変更する必要が生じた場合でも、それを命令できるのは、雇用契約の相手方である派遣元となります。また、派遣の場合は、派遣先から給与が支払われることは無いことになります。
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半日単位の年次有給休暇について教えて下さい。
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労働基準法39条に規定する年次有給休暇は1労働日を単位とするものですから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はないとされていますが、必ずしも半日単位の付与に応じられないということではありません。原則1労働日が基準ですが、労働者から申し出があれば半日単位の年次有給休暇の付与も認められます。
半日単位での付与の留意点としては次の3点です。
① 労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であること。
② 本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される場合であること。
③ 労働者が1日単位で年次有給休暇の時季を指定しているにもかかわらず、使用者が半日単位で年次有給休暇を付与することはできないこと。半日単位の付与には、次のような方法が考えられます。
① 午前と午後
② 所定労働時間を2で割る
①の午前と午後で分けることが一般的ではありますが、時間的な不都合をなくすため②のように所定労働時間をきっちり半分に分ける方法もとれます。半日単位の年休付与を行う場合には、前半と後半の時間帯その他の取扱いについて、就業規則に定めて運用することが必要となります。その規定例は次の通りです。第○○条 前条の年次有給休暇は、本人の申請により半日単位で取得することを認めるものとする。
2.前項でいう半日単位の「半日」とは、次の通りとする。
(1)前半:午前8時~正午 (2)後半:午後1時~午後5時
3.半日単位で付与する年次有給休暇は、年間5日相当分(10回)を限度とする
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社長交代および組織変更に伴う雇用契約書変更の要否について
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労働法では、労働契約は、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことを内容とする労働者と使用者の間の契約」とされています。
この「使用者」は、通常、会社という法人です。社長(通常、代表取締役の場合が多い)は、会社経営を委託されているにすぎず、法に言う使用者ではありません。
社長が交代しても、使用者は、依然、会社です。その点から考えれば、社長交代の都度、雇用契約を再締結する必要はありません。事業部名の変更や勤務場所の変更も、組織改編や人事異動の社内の問題で、雇用契約自体には、影響を受けるものではありません。雇用契約書締結の法律上の当事者は会社そのものということです。雇用契約書の契約者について、3/11で社長が退任し4/1から新しい社長が就任する場合、4/1からの雇用契約書の契約者は誰にすれば良いでしょうか。毎年、4/1~3/31の期間で雇用契約を更新している場合、3/31で社長が退任し、4/1より新社長が就任するわけですが、4/1からの雇用契約書は誰の名前で契約すれば良いのでしょうか。
始期は4/1であっても、契約を交わすのが3/27であれば、契約を交わすときの代表者が決済します。
契約は会社とするのであって、代表取締役は会社が委任しているだけであり、4/1からは新しい代表取締役がその会社の代表になっているというだけのことです。
始期が4/1なのに、労働日に突入してしまっている4/1に契約を交わすことはありえません。
始期を4/1として3月中に契約しているからこそ、4/1の午前0時から労働日が始まります。
いくら前代表取締役が決済したことであっても新代表取締役は責任があります。
ただし、前代表の契約によって損害が発生したときに、前代表に過失があれば前代表に対して損害賠償請求できるかもしれません。新代表が会社から委任もされていない3月中は決済する権限はありません。
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緊急呼び出しに備えた自宅待機は給料を支払う義務がありますか?
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労働基準法の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間のことをいいます。
待機中は連絡がつく場所にいなければならなかったり、呼び出し用の携帯電話を持つことを命じられたとしても、実際に呼び出されない限り、使用者からの指揮命令が直接及んだとは評価されません。
したがって、自宅待機の場合は労働時間にはあたらず、給料の支払い義務もありません。実際に呼び出されて業務に従事した場合のみ、給料を支払えばよいことになります。例えば、裁判例上も、ガス漏配管工事のため寮で待機する時間について、高度に労働から解放されていたとみるのが相当であり、労働時間に当たらないとされています(大道工業事件東京地判平成20年3月27日)。
自宅待機の性格から考えて、それに対する手当についても法的には制約がありません。
法律上からは、使用者は賃金や手当を支払う必要はないということになります。ですが、宿日直の許可基準たる1人1日平均の賃金の3分の1程度(昭22.9.13 発基第17号、昭63.3.14 基発第150号・婦発第47号)というのが参考になると思います。従業員を事業所内で待機させ、顧客対応などの必要性が生じた時点で直ちに業務に就くように命じる場合には、その待機時間は、場所的な拘束があり、常に業務に備えた状態でなければならないことから、使用者の直接の指揮命令が及んでいると評価され、労働時間にあたり、給料の支払い義務が発生します。
例えば、裁判例状も、24時間勤務でビルの警備・設備運転保全業務を行う会社における従業員の仮眠室での8時間の仮眠時間について警報が鳴った場合は設備の補修等の作業を要することから、使用者の指揮命令下にある労働時間に当たるとされています。(大星ビル管理事件最高裁一小平成14年2月28日)なお、自宅待機を行う場合には、あらかじめ労働協約や就業規則等に詳細を規定し、一定額の待機手当等を支給することが望ましいとおもわれます。
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残業を拒否する社員に強制はできますか?
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現在の法律では、労働基準法第32条にもある通り、法定労働時間を超えて労働させてはならないのが原則ですが、同法第36条に定める労使協定(36協定)を締結・届出ることにより、その範囲内であれば可能とされています。
しかしそれだけでは社員に時間外労働を命ずる強制力は発生しません。大事なのは、別途就業規則に定めておくことです。その規定内容に合理性があり、それに基づいて使用者が残業命令を出した場合は、正当な理由がない限り、社員は従わなければなりません。(日立製作所武蔵工場事件、最一小判平成3年11月28日)。
しかし逆に言うと「正当な理由」があれば拒否する事もできるので、使用者は、社員の諸事情を具体的に聴き取り、残業の必要性等を比較検討し、総合的に判断することが求められます。「正当な理由」がなく、残業命令を拒否する社員にはどう対応したらよいのでしょう。方法としては2つあります。
一つは、法律上罰則は定められておりませんが、複数回にわたる注意指導にも応じず、まったく改善が見られない場合は、就業規則の懲戒の定めに従い、軽い処分から検討し、徐々に重い懲戒処分へと繋げていくことも可能です。
また、賞与や昇給の査定で評価するのも一つの方法です。
必要な残業の拒否は、個人の就業意欲、勤務態度の一要素として十分評価対象となります。
しかし「正当な理由」がある場合、懲戒処分はもちろんのこと、賞与や昇給の査定に影響させることは権利の濫用と判断され無効となるので注意が必要です。では、「正当な理由」とはどのような理由なのでしょう。難しい判断ですが、余人を以て代えがたく、誰が見てもやむを得ないと判断される事由のことです。
つまり具体的には、社員の健康管理上必要な場合(体調不良の場合、通院が必要な場合等)や育児、介護等で他の家族が代わることができない場合等を言います。
やはり残業を拒否するにはそれなりの理由があるので、その事情を会社側は把握し、残業の必要性も社員へ説明し、相互で折り合いを付けることをお勧めします。
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残業代を水増し請求してくる社員への対処方法を教えてください。
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実態の無い残業代を架空請求したり、水増し請求しているということは、不法領得にあたるため横領罪になります。
自分の立場が経理部長であるなど、お金の管理を業務として任されている立場の人間が同じことをすれば、業務上横領罪になります。
また、架空請求をしている人がいたとして、それを架空請求であると知りながら、そのまま給与支払い処理をした経理担当者は背任罪になるかもしれません。残業時間の水増し請求は横領と言えるので、不当利得の返還を求めるとともに告訴して刑事罰を加えることもできます。
ただし、その前に当然不正水増しを立証しなければなりません。告訴する以前に不正をさせない管理体制を構築すべきだと考えます。
上司は部下の管理指導を行うとともに、規律違反等について相応の人事権(降格等)の行使や適切な懲戒処分(減給や解雇等)を為すべきでしょう。勿論、管理能力の無い上司も厳しく責任を問わなければいけません。残業は基本的には「業務命令」で行うものです。管理職の職務命令によって行うもので、残業の賃金支払い請求に対して、管理職が承認すれば支払われます。
「自己申告制」を採っていたりすると労働時間管理が甘くなったりします。自己申告制によるあいまいな労働時間管理を放置すべきではなく、日頃から労働時間を厳格に管理して正しく把握する必要があります。
運用が不明確で労働者任せのあいまいな労働時間管理は、結果として必要以上の長時間労働招きやすく、また水増し請求を発生させてしまう可能性があります。使用者は自己申告制により労働時間の管理を行う場合には、申告された労働時間と実際の労働時間との間に相違が生じていないかどう定期的に検証し、常に正しい労働時間を把握することができるように、自己申告制による労働時間管理に関する厳格な運用ルールと、正しい労働時間を把握するためのチェック機能を労使間で定めることが必要不可欠です。
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有期契約労働者についても試用期間を設けることができますか?
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民法628条は、「やむを得ない事由」があるときに契約期間中の解除を認めていますが、労働契約法17条1項は、使用者は、有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、使用者は契約期間満了までの間に労働者を解雇できない旨規定されています。
このため、例えば、契約期間1年の有期労働契約者について、3か月の試用期間を設けた場合、試用期間中であっても「やむを得ない事由」がなければ本採用拒否(解雇)できないものと考えられます。3か月の試用期間を設けることにより、「やむを得ない事由」の解釈がやや緩やかになる可能性はないわけではありませんが、大幅に緩やかに解釈してもらうことは期待できないものと思われます。
したがって、有期契約労働者についても試用期間を設けることはできるものの、その法的効果は極めて限定されると考えるべきことになります。労働契約法17条1項は強制法規ですから、有期労働契約の当事者が民法628条の「やむを得ない事由」がない場合であっても契約期間満了までの間に労働者を解雇できる旨合意したり、就業規則に規定して周知させたとしても、同条項に違反するため無効となり、使用者は民法628条の「やむを得ない事由」がなければ契約期間中に解雇することはできません。では、どうすればいいのかという話になりますが、有期契約労働者には試用期間を設けず、例えば、最初の契約期間を3か月に設定するなどして対処すれば足ります。
このようなシンプルな対応ができるにもかかわらず、有期契約労働者にまで試用期間を設けるのは、あまりセンスのいいやり方とは言えないのではないでしょうか。正社員とは明確に区別された雇用管理を行うという観点からも、有期契約労働者にまで試用期間を設けることはお薦めしません。
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休職期間中の社会保険料は、どうすれば良いのでしょうか?
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休職のため無給であっても、社会保険料(健康保険・厚生年金保険・介護保険)は掛かります。なお、雇用保険は各月の賃金に応じて保険料が掛かりますので、無給の場合は雇用保険の保険料は掛かりません。
休職する場合は、休職期間中も社会保険料が掛かることを本人に説明して、保険料をどのようにして支払ってもらうか確認する必要があります。方法としては、次のようなものがあります。1.毎月振り込んでもらう
2.会社が立て替えておいて、復職後にまとめて返済してもらう
3.会社が社会保険料の本人負担分を賃金として支給し、その分を控除する
4.前もってまとまった金額を預かる2.の「復職後にまとめて返済してもらう方法」は、長期休職の場合は保険料の総額が大きくなって返済が大変になり、復職しないで退職する場合に、返済に応じないでトラブルになることがよくあります。
また、3.の「本人負担分を賃金として支給する方法」では、賃金が支払われていますので、その分だけ傷病手当金が減額されます。
健康保険に加入している場合は、私傷病休職の期間(最長1年6ケ月)は傷病手当金(標準報酬月額の3分の2)が従業員に支給されます。しかし、賃金の支給がある場合は、その分だけ傷病手当金が減額されます。従業員にとっては受け取れる金額は同じですが、本来健康保険から支給されるはずの部分(減額分)を会社が支払っていることになります。
健康保険の制度を有効に活用するのであれば、無給としたほうが良いでしょう。次に、4.の「前もってまとまった金額を預かる方法」は、個人の事情によっては難しいケースがありますし、想定している休職期間を超えることが考えられます。
したがって、1.の「毎月振り込んでもらう方法」が一番無難です。
無給の場合は、本人負担分の社会保険料を毎月会社に振り込んでもらうことを、就業規則(賃金規程)に記載しておくと良いでしょう。取扱いを明確にして、休職する従業員に理解してもらえるようにしておくことが必要です。